原状回復費用を返して! ある裁判例
貸主が原状回復費用を受領したものの、その後原状回復工事を行わなかったという
場合に、返還義務を負うかどうか?
解約合意書の内容は、大事です!
今回は、6月19日にYahooニュースに載った記事から一部抜粋してご紹介します。
貸主が原状回復費用を受領したものの、その後原状回復工事を行わなかったという
場合に、返還義務を負うかどうかを争った裁判です。
つまり、借主は原状回復費用としてその代金を払ったのに、次の新借主はそのままの
状態で借りるということになり、貸主は原状回復工事を行わずに済みました。
それを知った原状回復費用を払った前借主が、原状回復費用を使わなかったのだから
その費用を自分に返してくれということです。
この賃貸借契約書において、明渡し・原状回復部分については、以下のような規定が
ありました。
(イ)借主は、賃貸借期間内に本件店舗を原状に復して貸主に明け渡さなければならない
(ウ)前(イ)の場合、借主が遅滞なく本件店舗を原状に復さないときは、貸主は借主に
代わって借主の費用でこれを行い、収去した物件を任意に処分することができる
(エ)上記(イ)の原状回復工事については、貸主の指定する業者で貸主の指示に従い
実施するものとする。
このような契約条項を前提としたうえで、貸主と借主は、賃貸借契約の解約合意書で
主に以下のように合意をしていました。
・本件賃貸借契約書に基づき、貸主指定業者により原状(スケルトン状態)回復を行い
本件店舗の明け渡しを完了することを及び貸主は確認する。
・借主は、貸主に対し、原状回復工事費用〇〇〇万円(消費税込)を貸主からの請求に
基づき、平成〇年〇月〇日までに支払うものとする。
・貸主及び借主は、本件合意の書面に定める他に、なんらの債権債務が存在しないことを
確認する。
そしてこの解約合意書を受けて裁判所の判断は、、
「借主が本件店舗の原状回復工事に要する費用○○万円(消費税込)を同年〇月〇日
までに貸主に支払うことにより借主の本件店舗の原状回復義務を免除し、本件店舗の
明渡しが完了することとし、解約日までの賃料や敷金等の清算を行い、その他に
本件賃貸借契約に関し、借主及び貸主はなんら債権債務が存在しないとする合意である
と解釈するのが相当である。」 と
そう認定したうえで、、、
「その後の事情の変更により、貸主が原状回復工事を実施しなかったり、
原状回復工事の施工内容が変更されて費用額が上記金額と異なったりしたとしても、
その清算を行わないことを前提とした合意であると解される。」 と述べて、
借主からの返還請求を認めませんでした。
つまり、裁判所は、貸主と借主とのあいだの解約合意内容は、借主が貸主に原状回復工事
相当額を支払うことにより借主の原状回復義務の履行に代えることを合意する旨に
とどまるのであり、 また、これをもって貸主と借主間に債権債務関係はなんら存在
しない合意もされているので、これを超えて借主が貸主の指定する業者に
原状回復工事を委託するという趣旨までは含まない、という解釈をしたと考えられます。
このように言われてみれば、裁判所の言い分もわからないでもないですが、
この「原状回復費用を返して!」と言ってる借主の気持ちはもっとわかります。(笑)
解約合意書の”お互いなんら債権債務が存在しない”というひと言は大事なんですね?