買付証明書と損害賠償
買付証明書の補足説明
損害賠償に至る判例の紹介
買付証明書の法的な解釈
令和1年10月14日にあげた「買付証明書ってなんでしょうか?」という私の
記事に関しての補足です。
原則として買付証明書や売渡承諾書のやり取りでは、法的な責任はなく
契約は成立しないという意味のことを書かせていただきました。
裁判所の判断でも、買主からの買付証明書、売主からの売渡承諾書が出されている
場合でも、土地の売買契約を締結する意思のあることを示す
「道義的な拘束力をもつ文書にすぎない」という判例があります。
もう少し具体的に言いますと、例えば大阪高判平成2年4月26日の判例では、
1)いわゆる買付証明書は、不動産の売主と買主とが、全く会わず、
不動産売買について何らの交渉もしないで発行されることもあること
2)したがって、一般に不動産を一定の条件で買い受ける旨を記載した
買付証明書は、これにより、不動産を買付証明書に記載の条件で
確定的に買い受ける旨の申込みの意思表示をしたものではなく
単に、不動産を将来買い受ける希望がある旨を表示することにすぎないこと
3)現実には、その後、買付証明書を発行した者と不動産の売主とが具体的に
売買の交渉をし、売買についての合意が成立して、初めて売買契約が
成立するものであって売主が不動産売渡の承諾を一方的にすることによって
直ちに売買契約が成立するものでないこと
4)このことは、不動産取引業界では、一般的に知られ、かつ、了解されている
としています。
損害賠償にまで発展したケース
東京地裁平成20年11月10日判決では、
不動産の購入予定者が不動産市況の悪化を理由に契約の締結を拒否したことに
ついて、拒否の正当な理由がないとして、契約締結上の過失による
不法行為責任が認められています。
ただし、このケースの場合
1.買付証明書交付後の3カ月間で7通の売買契約書案を作成していること
2.最終的に売買契約の条件が、ほぼ確定していたこと
3.売買に向けた準備行為として、配水管関係工事を実施し、駐車場契約を
解除して明け渡しを受けたこと
等の事情が重視されています。
これらの事情から、売買契約締結への合理的な期待は保護されるべきものと
考えられたのです。
つまり、契約成立に向けて交渉が進められ、相手方との間で、
契約が成立することへの信頼関係が築かれる段階にまで達しているにも関わらず
この信頼が裏切られた場合には、契約締結上の過失があったものとして
損賠賠償請求が可能になります。
他にも、売買契約書等の作成と代金決済を行うことや、地鎮祭の日取りまで
確認された後に、買主が売買契約締結を拒んだ事案においても、
損害賠償請求が認められています。
買付証明書の法的性格は、前回記事に書かせて頂いた通りですが、
このように契約に向けた交渉、契約の準備行為までするような段階に来ると
損害賠償にも発展する場合もあるということになります。